不快指数なんかぶっ飛ばせ
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。

  


今年の東日本の梅雨は空梅雨になりそうな恐れがとか、
となると関東地方の水がめが危ないとか散々案じられていたのを払拭するかのように、
この数日ほどは、
終日ではないにせよ半日ぶっ通しというノリで結構な勢いの雨が降り続いており。
となれば、気温が上がっていたこととの相乗、
温気のこもった むせ返るような空気が外にいても満ち満ちており。
今日も今日で、
鈍色とまで暗くはないがそれでもいつ降り出してもおかしくはなような空模様。
仰いだ頭上一面、明るめのグレーで塗りつぶしたような曇天の下、
鬱陶しい空気を打ち払うかのように、そりゃあ颯爽と立ち回っている顔ぶれがいる。

 「哈っ!」

ぶんっと風を引き裂いて旋回させたしなやかなポールが鉾と楯の両方を担っていて、
その中央辺りを握って自在に操る白い手の主の動作は、差し詰め美しい舞いのよう。
勿論…というのも何だが、ただ酔狂にも舞っているだけではなく、
その身へ降るように襲い掛かる輩どもの腕や肩、
邪魔だ邪魔だと振り飛ばし跳ね飛ばすために攻撃の手を緩めない彼女なのであり。
やや腰を落とし気味にし、
ステンレスの得物を鋭く旋回させて左を薙いでは数人の足元を蹴手繰り、
腕を振りきったことで隙が出来たと思う浅はかな顔ぶれが

 「もらったぁ!」

右側から駆け寄る気配もしっかと拾っており。
空いていた右手を地につくと、そのまま流れるような所作でぐるんと前へ大きな側転を決め、

 「な…はがっ!」

身長プラス腕の長さ分という大きさで避けた標的と入れ替わり。
別の有象無象を特殊警棒の二刀流で軽快に薙ぎ払っていた、
金色のくせっ毛も活劇にはいっそセクシーに映える、寡黙なクールビューティさんが、
何処から駆けて来たものか、弾丸のような凄まじい勢いで駆けて来たそのまま、
俺のシチに何すんだという憤懣もこもった重い一撃、
容赦のない二連発での打撃を腹へX字に食らわしており。
結構巨体だった身、足元から浮いたそのままずでんどうと、
赤いレンガ風、テラコッタ敷きの遊歩道へあえなく伸びてしまっておいで。

 『蒸し暑さからイライラしているのはあなた方だけではありませんことよ。』
 『そうだそうだ。』

ここはQタウンと呼ばれるJRの駅前繁華街に間近い、ちょっとした緑地公園の中であり。
連日のお湿りの狭間のやっとの晴れ間、
小さな子供を連れたお母さん方やちょっぴりお歳を召した初老のご夫婦なぞが
翠の梢の間や木陰を吹く風を堪能しにと
足を運んでおいでだったところへと。
10人近くの柄の悪そな連中がだらだらと、固まって入り込んで来て。
何が面白くないものか、子供らがキャッキャとはしゃぐ声に眉をしかめていたものが、
終いには転がってきたビニールボールを遠くへ抛ったり、
うるせぇんだよと凄んだりを始めたものだから。
直接手を上げるかもしれないなと周囲が危ぶみだし、
足早に逃げ出す気配がまた、何かしらの挑発になってしまったか、

 『…んだよ、その態度はよっ。』

因縁つけて鬱憤晴らしでもしたいような態度、最初から見ていた こちら様。
とうとう振り上げられた手があったのを、
それは見事なフットワークで近づいての掴み取り、
ついでに足元へぱしんと横への払いを掛けてそりゃあ鮮やかに素っ転ばせた。
裏が擦り切れたデッキシューズだったようで
あっさりと自分より小柄な少女から手玉に取られた青二才。

 『なにしやがるっ!』

変形の一本背負いを掛けられたご当人はもとより、お仲間たちも一斉に吠えたてたが、

 『何をも何も。』

応じたのは素っ転がしたお嬢さんではなく、その連れらしき別の少女。
涼しげなサッカー地のブラウスにセミタイトなスカートを合わせた、
一見すると行儀の良さそうなお嬢様風だったが、

 『蒸し暑さからイライラしているのはあなた方だけではありませんことよ。』
 『そうだそうだ。』

そんな風にきっぱり言い放った金髪美人の言へ、もう一人の連れがはやし立て、
最初につかみ投げをご披露したお嬢さんも加わっての都合3人。
どっから観ても女子高生だろう十代のうら若き女の子たちが、
いかにも柄の悪そうな、ついでに何にか機嫌も悪そうな一団を前に、
恐れげもなく立ちはだかっており。

 “なんだ、こいつら。”

自分らの苛立ちに目が眩んでいたものの、
ようよう見ればどの子も半端ではない美人揃い。
しかもそれだけじゃあなくて、
こんな危険な場へしゃしゃり出てきた態度に妙な威容も添うており。
カーディガン代わりのオーバーシャツにTシャツとショートパンツという
至ってラフなコーデュネイトにも、
どこぞかの名のあるブランドものなのか
着崩しようのないかっちり感があり。
さりとてそんな逸物を余裕で着こなしているところは生まれか人柄か。
金髪の二人の凛とした構えように比すれば やや大人しめに見えなくもないもう一人も、
つばの浅いカンカン帽の庇をちょいと指先で持ち上げて、へへーと軽やかに微笑う態度が
ちいとも怖くなんてないと言っており。
鬱憤晴らしどころかますますと恥を掻かされたと
青二才らの憤懣のボルテージも上がったらしく、

 『うっせぇなっ、偉そうにしてんじゃねぇよっ!』

最初に薙ぎ倒されたのとは別口の顔が、
真っ向からなら勝てるだろ、それか怖がって避けんじゃねぇかと、
やはり拳を振りかぶって突っ込んで来たものの、

 『あららぁ、同じ手で来ますか芸のない。』

避けるどころか、豪速球を受け慣れているキャッチャーのごとしで、
眉一つ動かさずに片手だけをすいと突きあげる。
ただ受け止めても反動はさすがに大きかろうし、
かと言って大きく避けるのは…それもなかなか出来ないことだが、逃げを示すようで業腹だ。
そこでと掌底に当ててぺいっと脇へ跳ね飛ばし、

 『うおっ!』

思わぬ反撃にバランスを崩し、コースは逸れたが勢いはそのまま、
失速してたたらを踏んでしまった格好の相手の脾腹へ

 『ごめんあそばせ。』

ドンと肘打ちを食らわせる。
どうやら血の気の多い双璧だったらしい先鋒組が一気に畳まれ、
しかもこれだけの衆目の中、なおの恥を掻かされ、引っ込みがつかなくなったのだろう。

 『貴様っ!』
 『やっちまえっ!』

残りの面々が仲間の、それから自分らの面子が立たぬと思うたか、
わっと一斉に駆け出してくる。
これはえらいことになったとばかり、周囲で固唾を飲んでいた皆様が避難を始め、
それをしっかと見守りながら、
無頼の輩たちを人気の少ない方へと誘導しつつ。
綿サテンのジャケットを羽織っていた細腕を振り抜き、
頭上から振り下ろされた棍棒風の武装、
こちらもじゃキリと伸ばして構えた特殊警棒で受け止めたのが 紅ばらさんこと久蔵殿なら。
後ろ向きでたったか駆けて こっちだこっちだとの誘導もお上手に、
ある程度 人垣から離れたところで、ざっと片方の足を引き、
タイトなスカートの裾を片方、スリットに添わせてちらりとまくり上げたそのまま、
こちらもやはり得物のポールをぶんと振り抜き。

 『こんのーっ!』

どこから持ってきたのやら、古びたチェーンを振り下ろしてきたの、
ぐるぐるとわざとに巻き付けての そおれと引っ張って奪い取り。
返す反動、ポールの柄の側を突き出して
どんっと肩をついて突き飛ばしたのが白百合さんこと七郎次。
そして、

 『そいつを人質に取れ。』

特に武装もないまま突っ立っていた、
オーバーブラウスにカンカン帽という、
いかにも可愛らしいいでたちのお嬢さんなのへ、
唯一非力な存在だと思えたか、それでも数人が掴みかかってきたものの、

 『あらあらあらまあ。』

はんなりと笑った形にたわめられた双眸が、
一瞬きろりと見開かれて瞬いたかと思った次の瞬間。
片方の手首に巻かれたミサンガのようなブレスレット、
もう一方の手で房飾りをぐんと引き延ばして。
広げられた両腕の間でぴんと伸びたのは細い細い針金のような線だったが、
伸ばした側の手を放すと前方へとビヨンと弾けてゆき、

 『な、何だこれ…ってぎゃああ!』

静電気の実験で、帯電させたのを一気に食らうとこんな感じか。
ばつんっと凄まじい音つきで、
触れた顔ぶれが身をこわばらせたそのまま、その場へバタバタ倒れ込む。

 “あーあー、見かけに騙されて。”
 “……。(頷、頷)”

静電気による電撃に、得体の知れない薬剤や樹脂での捕獲装置。
何を仕掛けられるか判らない、びっくり箱のような存在、
不意打ちだから避けよもない性の悪さを発揮する、ひなげしさんこと平八といい、
毎度おなじみ、某女学園の三華様がた。
期末テストを間近に控え、
梅雨空が鬱陶しいからと
ショッピングモールまでのお出掛けを決め込んでたお嬢さんたち。
実は実は、何と今年から復活されるらしい社交ダンスのカリキュラムへ
うわ それはないわ、何で今年からと、可愛らしいおでこを寄せ合い、
コトの真相がはっきりしないのへ悶々となさっておいでだったようで。

 “そうよ、こっちの方が切実なんだからね。”

 “まったくですよ。
  たかだか駅前の広場からお巡りさんたちに追い出されたくらいで
  暴れてんじゃないっての。”

 “けど…。”

本当なのか?その話と、
案外とそういう社交界のあれこれには
とうに馴染んでいそうな紅ばらさんが一番落ち着いてないようで。
ダンス自体がどうこうとは言ってない。
何たって公演にも出るほどにクラシックバレエをこなしておいでの身だし、
正式には習得してなくたってすぐにも身につけられるに違いなく。
ただ、

 『クリスマス前後にそれらしい宴だか披露の場だかを設けて、
  採点がてらご披露と運ぶんじゃないかってのが職員せんせえたちの間での噂なの。』

 『噂、か。』

ダンスの単位が増えるのへではなく、それを披露する場が設けられるというのが
彼女らを珍しくも浮足立たせているのであり。
そもそも、大昔に毎年の定例の行事としてあった舞踏会。
令嬢の父親がパートナーとなって、全校生徒その父兄が集う場で、
社交界へのデビュタントとしてのお披露目よろしく
華麗に舞った宴があったのだけれども。
最近はシングルマザーというのもさほどめずらしいこととされない時流なものだから、
パートナー役が父親と限定できなくなり、
そのまま徐々に廃れてしまったようで。

 『でもね、最近、学園祭の後夜祭でバンド演奏とかにぎやかに催しているじゃない。
  そういうのがイマドキなのならしょうがない、
  苦々しいとまでは言わないけれど、だったらあの舞踏会も復活できないものかって
  初代近くのOGの皆様からのお声が大きくなりつつあるそうで。』

 『う〜ん…。』

ありそうな話だよね、それ。
でも、まだ職員さんたちレベルの噂なんでしょう?と、
情報が早いのも善し悪し、
前倒しで悩ましいお顔になっていたお嬢様たちだったのらしく。

 『兵庫は学校関係者だから…。』
 『それを言ったら勘兵衛様なんて、警視総監の護衛で来る警護担当だよ。』
 『ゴロさん、もしかしてソシアルダンスは踊れないかもだよなぁ。』

お父様やそれへ準ずる人がいないじゃない、むしろ準ずる人とこそ踊りたいのに、
それがままならぬかもしれないのが何ともなぁと。
どんだけ前倒しの煩悶なのやら、
言うに言われぬ悩ましい物思いに苛ついてたのはこっちの方だと、
……どっちが鬱憤晴らしをしたのやら。(う〜ん)

 「こらこら、そこの暴れん坊たち。」
 「あらま、島田警部補。」

さすが、ここまで繁華街だと大物が出てくるなぁと、
籠手をかざしてお髭の壮年が警察官の皆様と共にやって来るのを見やった平八とは真逆、

 「やばいやばいって。」

あわわと久蔵の痩躯の陰へ隠れているのが白百合さん。
それで隠れているつもりかと、
しょっぱそうな顔になり溜息をついた
筋骨隆としておいでの頼もしい警部補殿へ、

 “大人しくなってくれるかと思ったんですがね。”

舞踏会復活かという噂を巧妙に流したらしい張本人が、
何となったら飛び出していこうと見張っていた三木さんちのセダンから、
顛末を見やって苦笑をこぼす。
相変わらずと片づけていいのかどうか、
とりあえず、夏休みが間近な東京の一角での騒動がやっと収集しそうな気配です。




   〜Fine〜  16.06.22


 *何だか妙な二段攻勢で ややこしくてすいません。
  でも、あんなゆかしい女学園だもの、
  舞踏会もあっていいんじゃないかなんてふと思いつきまして。
  …つか、実は最近出入りしている夢小説サイトさんに
  そういう設定が多くてつい。//////
  でもでも、ありだと思いません?
  ダンス自体はこなせる3人だろうけど、
  じゃあそのパートナーはとなると、
  ヲトメ心がじたばたしないかと思いましてね。
  どっちにしたって荒くたい話の動機がそれって…。(笑)

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